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長野地方裁判所 昭和46年(行ウ)4号 判決

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

1  被告が昭和四五年二月二七日になした原告の昭和三九年二月一日から同四〇年一月三一日までの事業年度分の法人税所得金額及び法人税額更正並びに重加算税賦課決定(同四五年六月二五日の異議決定により減額されたもの)はいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

主文同旨

第二当事者の主張

(請求原因)

1  被告は昭和四五年二月二七日、原告の昭和三九年二月一日から同四〇年一月三一日までの事業年度(以下、本件事業年度という。)分の法人税につき所得額及び法人税額をそれぞれ金三五三万三、二八三円及び金一一一万二、五〇〇円と更正(以下、本件更正という。)し、重加算税額金六万三、六〇〇円の賦課決定(以下、本件決定という。)をし、原告の異議申立に対し、同年六月二五日、本件更正及び決定を一部取消し、所得額金三三七万八、一四三円、法人税額金一〇三万二、五〇〇円、重加算税額金三万九、六〇〇円とそれぞれ異議決定した。

原告はこれに対し、同年七月二六日関東信越国税局長に審査請求したが、同局長は同四六年三月九日これを棄却する旨の裁決をなし、右裁決は同月一三日原告に通知された。

2  本件更正、決定(以下、両者を合わせて本件各処分という。)の理由は、「原告には本件事業年度に日本勧業銀行(現在第一勧業銀行)松本支店(以下、銀行という。)に預入した定期預金の受取利息収入(利子所得から源泉徴収された所得税額を控除したもの。以下、同じ。)金三八万八、八八一円があり、その事実の全部を隠ぺいし、隠ぺいした事実に基づいて納税申告書を提出し、本件事業年度分の法人税所得額を過少申告した。」というにある。

3  原告は源泉分離課税により右利子所得につき所得税を納付済みである。

よつて、被告の本件各処分は違法であつて取消を免れないから、原告は請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

(請求原因に対する認否)

全て認める。

(本件各処分の適法性について)

1  確定申告による所得金額と課税処分による所得金額との差額の内訳は次表のとおりである。

表〈省略〉

右差額の算出根拠は次のとおりである。

(一) 順号#2の受取利息計上もれ金三八万八、八八一円について

原告は、銀行に架空名義又は他人名義による定期預金を設定していたが、右定期預金につき、本件事業年度において合計金三八万八、八八一円の受取利息収入があつたのに、確定申告においてこれに相当する受取利息が計上もれとなつていたので、これを益金の順に加算したものである。

(二) 順号#3の価格変動準備金繰入認容金三万八、〇八一円について

確定申告による価格変動準備金損金算入積立限度超過額金四万九、七一三円と前記受取利息金三八万八、八八一円を益金の額に加算した結果、所得金額の異動に伴い再計算した同積立限度超過額金一万一、六三二円との差額金三万八、〇八一円を同繰入限度超過額の認容として損金の額に算入したものである。

2  本件決定の根拠について

前記1で述べたとおり、原告は、法人税を免れる目的をもつて、原告に帰属する預金を簿外の匿名預金とし、その受取利息を隠ぺいして法人税の確定申告書を提出していたから、被告は国税通則法六八条一項の規定により右仮装隠ぺいされていた部分の法人税額を基礎として一〇〇分の三〇の割合による重加算額を賦課決定したものである。

(本件各処分の適法性についての認否)

1  第1項(一)のうち、架空名義又は他人名義の定期預金が原告に帰属すること、従つてまたその受取利息収入も原告に帰属すること及び原告が確定申告に際し、右利子所得を所得金額に算入しなかつたことは認め、その余は争う。

第1項(二)は認める。

2  第2項のうち法人税逋脱の目的をもつて隠ぺいしたことは争い、その余は認める。

原告は右利子所得につきすでに源泉分離課税によつて所得税を納付しており、確定申告をするまでもなく旧租税特別措置法三条二項により納税を完了しているものであつて、右利子所得については申告を要しなかつたものである。

第三証拠関係 <略>

理由

一  本件更正について

【上告審において認容された判示部分】原告は源泉分離課税により利子所得につき所得税を納付済みであつて、利子所得から納付済みの所得税を控除した受取利息収入を計上もれとして法人税の課税対象とした本件更正は違法である旨主張するので検討する。

(一)  租税特別措置法(昭和四〇年法律三二号による改正前のもの。以下、旧租税特別措置法という。)三条は、居住者については所得税法の規定にかかわらず他の所得と分離して課税する旨定めているが、旧租税特別措置法三条にいう居住者とは、同法二条一項が引用する所得税法(昭和四〇年法律三三号による改正前のもの。以下旧所得税法という。)一条によれば、個人(自然人)であつて法人を含まない。従つて、原告は旧租税特別措置法三条の分離課税に関する規定の適用を受けない。

(二)  法人の各事業年度の所得は、各事業年度の総益金から総損金を控除した金額と定められ(法人税法(昭和四〇年法律三四号による改正前のもの。以下、旧法人税法という。)九条)、総益金のなかに利子所得が含まれることはいうまでもない。そして法人に利子所得があつた場合、当該所得に対して課すべき所得税は支払をなす者において源泉徴収され(旧所得税法一条五項、四一条一項)、その税率は百分の五とされている(旧所得税法一八条一項、旧租税特別措置法三条二項)。

ところで旧法人税法一〇条一項、二項、同法施行規則二二条の二は、法人が旧法人税法一八条ないし二四条の申告書に所得税額の控除に関する申告の記載をした場合には、納付すべき法人税額からその所得税額を控除し、当該控除される所得税額は法人の各事業年度の所得の計算上損金とならない旨定めている。従つて右の申告がなされなかつた場合には、同法一〇条二項の反対解釈として、源泉徴収された所得税額は、法人の各事業年度の所得の計算上損金に算入され、その結果受ける不利益は、申告を懈怠した納税義務者が負担すべきものと解すべきである。

(三)  そこで本件についてみると、架空名義又は他人名義の簿外定期預金及びこれから生ずる利子所得が原告に帰属すること、並びに右利子所得について確定申告がなされなかつたことについては当事者間に争いがないので、原告の本件事業年度の所得の計算上、右利子所得は総益金に、源泉徴収にかかる右利子所得に対する所得税額は総損金にそれぞれ導入されることとなり、従つて、利子所得から右所得税額を控除した金三八万八、八八一円(受取利息収入)は課税標準たる所得額に加算されるべきこととなる。

(四)  そうだとすれば、この点のみを本件更正の違法事由とする原告の主張はそれ自体失当というべきである。

二  本件決定について

(一)  前記一に述べたところによれば、原告のなした確定申告は過少申告というべきであり、本件は過少申告加算税が課せられる場合に該当する。

(二)  原告が仮装名義で簿外定期預金を設定し、それにつき受取利息収入のあつたこと及び受取利息収入を除外して確定申告したことについては当事者間に争いがなく、右争いのない事実及び<証拠略>並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告が右過少申告に際し、計算の基礎となるべき事実の全部を隠ぺいしたことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。従つて、被告のなした本件決定は適法というべきである。

三  結論

以上の次第で、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 川名秀雄 山下和明 川島利夫)

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